2010年、国立社会保障・人口問題字研究所が算出した自殺やうつ病がなくなった場合の経済的便益は、約1.7兆円ほどGDPを引き上げるという結果でした。
これは、メンタルヘルス不調による休職やそれらに関連する就業規則上の問題などにより発生する生産性低下の経済的インパクトの推計です。不調による集中力の低下やミスを入れるとさらに増えるでしょう。
M&Aが盛んに行われた80年代のアメリカでは、ストレスによる経済損失は連邦政府の財政赤字に匹敵する約19兆円だと報じられました。
メンタルヘルスの低下がもたらす経済損失を測定する尺度として、①労働損失日数、②医療費、③訴訟費用、④職場における対策費用が挙げられます。このような経済的側面からも、そしてメンタルヘルス不調による自殺者の推移からも、すぐに手をつけなければならないことは明白です。
最近増加する難しいケース
最近、診断が増えた障害や病気により、判断や対応が難しい状況が増えています。皆さんなら以下の状況にどう対処しますか?
「周りが悪い」
パーソナリティ障害のあるAさんが、同僚や上司が悪い、パワハラを受けたと人事部に訴えてきました。手には、上司との会話を秘密で録音したデータ。会話の中で、確かに「お前は本当にだめなやつだなぁ」と上司が発言しています。パワハラ?この発言に続いて、「俺が一緒に先方に謝るから、次回もう少し慎重にな?」と。フォローして、指導しています。
しかし、Aさんは「パワハラを受けた」「自分の能力を活かせず、だめにしたのは上司の責任。それなのに暴言を吐かれて、うつ状態になった」と主張します。
「言葉以外を推し量ることができない」
まじめで確実な仕事ぶりのBさん、周囲やお客さんとのコミュニケーションがうまくいかない、職場になじめないと悩みます。アスペルガーの可能性があり、言語以外のコミュニケーションが苦手で、人の気持ちを推しはかることができません。職場や上司としては、どのような対応をとればよいでしょうか?
産業医・人事部・上司で話し合った結果、意図的に、言語化したコミュニケーションを行うことにして、関係者全員周知しました。Bさん本人の同意を得たうえです。Bさんにやってもらいたいことを説明する際には、ストーリー仕立てで具体的な行動に落とす、とにかくすべて言葉に出すことなどを徹底しました。
想像力や、暗黙知、「あうんの呼吸」に頼らないコミュニケーションです。ある意味、違う文化から来た人に説明する、くらいの気持ちで取り組んでいます。
「本当にうつ病なの?」
無断欠勤や遅刻の目立つCさん。休みの日は元気にしているそうです。
1か月休業しましたが、その間は気分転換のために1泊旅行に。しかし出勤すると調子が悪く、またすぐに欠勤します。抗うつ薬は続けていますがなかなか治らず、双極性障害Ⅱ型かもしれません。
背景
IT化、人と人との直接コミュニケーションの希薄化、SNSによる同調圧力、終身雇用制の崩壊など、世の中の変化は速く、複雑化しています。
ゆっくり立ち止まって考えたり、相談する機会が減ったと思いませんか?ネットにより、すぐに検索できるかわりに、人と比較する機会が増えて自信を失っていませんか。
ノイズ(雑音)が非常に多く、自己を消耗させやすい時代に私達は生きています。また、研究が進んだため、以前は診断されにくかった病気が表面化してきています。
双極性障害Ⅱ型(従来の躁うつ病のようにアップダウンが激しくなく、調子のよい時がたまにある)、パーソナリティ障害、アスペルガーなどがそうです。
診断が難しいグレーゾーンの人の扱いは難しく、彼らのへの対応も試行錯誤を繰り返している段階です。だからこそ、社会全体の生産性をあげるためにも、ひとりひとりが正しい知識を持ち、彼らの特色を知り良さを活かし、支援することが求められるのです。
まとめ
・GDPへのインパクトは、約1.7兆円。
・メンタルヘルスの低下がもたらす経済損失を測定する尺度として、①労働損失日数、②医療費、③訴訟費用、④職場における対策費用が挙げられる。
・パーソナリティ障害、アスペルガー、双極性Ⅱ型など、診断や対応が難しいケースが増加。